ガザ女子学生日記

2025年2月5日(水)

2025-03-04 21:34:06
2025-03-29 11:47:48
目次

2月のある静かな朝、変わり果てた街の壁に金色の光が差し込む前に、一日の始まりの安らぎを求めるために目を覚ましました。空気はまだ夜明けの爽やかな声が聞こえるようでした。私は、温かい毛糸のショールをまとい、ブラックコーヒーの強い香りにいつも癒されている私は、静かな足取りで街の小さな路地へと歩き始めました。コーヒーの香りは、思い出と心の鼓動が同時に絡みあうのです。

 私は、いつもの隠れ家のような小さなカフェに入りました。アンティークの木製のテーブルがあるこのカフェは、道行く人たちの歴史をずっと見続けているのです。コーヒーカップの音とそこにいる人たちの会話が混ざり合い、独特の魅力を醸し出しているカフェです。私は、窓際のテーブルを選びそこに座って、街がゆっくりと目を覚まし、前夜の埃を払い、あたらしい一日が始まるのを眺めていました。この光景をみていると不思議な落ち着きを感じるのです。まるで生きている絵画を見ているように、繊細な糸が命のぬくもりを紡ぎだすように、路地が伸びているのです。

 私は湯気の立つコーヒーカップを目の前に置き、深く息を吸いました。焙煎された豆の香を吸い込むと、私の心にしみわたり、埋もれていた何かを呼び覚ましてくれるのです。その横には、金色の文字で「パレスチナ」と書かれたきれいな包装のチョコレートがありました。しばらく私は、大切な思いでそのチョコレートを眺めていました。それは、ただのチョコレートではなく、故郷の味、大好きな私の家の味でもあり、どんなに遠い所にいっても私の心の中にある土地の香を感じさせるのです。クナーファ(アラブ菓子)とピスタチオの風味は、私の大好きな味で、故郷のぬくもりをその味に閉じ込めたかのようでした。

 コーヒーを一口飲んで、過去と現在をブレンドした朝の味を吸い込むように、しばらく目を閉じました。その少し苦い味は、私の中にある、相反する感情を呼び覚ますのですが、同時に甘い思い出も運んでくれました。そしてこの苦い味は、人生にとって不可欠な一部であることも教えてくれました。

 その時、私は、人生に異なった味わいを与えてくれる単純なものがあると気が付きました。つまり日々変化している中で、目に見えない小さい出来事があるのです。苦いコーヒーでありながら故郷のぬくもりが一杯つまっていて、故郷の想いが溶け込んだチョコレート、そして私の朝を受け入れ、私の一部を取り戻してくれたこの小さなカフェが教えてくれました。

私は、ゆったりとした想いで微笑み、コーヒーの熱さだけではなく、大切にしている私の中から消えることの無かったコーヒーの温もりが身体中に広がっていくのを感じました。世界の片隅で、そしてこの日常の瞬間、私は、生かされていることを実感したのです。そしてこの朝は、この一杯の味に変わるものは何もありませんでした。

 

この記事を書いた人

Sabara

Sabara(サバラ)22歳 パレスチナ・ガザ地区出身。アル・アクサ大学で英文学を勉強中。情熱的で野心家。写真撮影と読書が好き。2024年11月から日記を書き続けている。